超情報化社会の問題点 『know』【小説おすすめ】
超情報化対策として、人造の脳葉〈電子葉〉の移植が義務化された2081年の日本・京都。
情報庁で働く官僚の御野・連レルは、情報素子のコードのなかに恩師であり現在は行方不明の研究者、道終・常イチが残した暗号を発見する。
その“啓示"に誘われた先で待っていたのは、ひとりの少女だった。
道終の真意もわからぬまま、御野は「すべてを知る」ため彼女と行動をともにする。
それは、世界が変わる4日間の始まりだった。
knowのここが面白い
超情報化社会
「知っている」
その言葉の意味が変化してきたのは、この20年のことだ。15歳の中学生は新しい意味で使っているし、45歳以上の人は古い意味でしか使わない。
2000年を越えてから、人類の扱う情報量は飛躍的に増大した。
2040年、《情報材》の開発により情報インフラは革新する。
フェムトテクノロジーの結晶である情報材は、微細な情報素子を含む素材・建材の総称だ。通信と情報取得の機能を有する極小サイズの情報素子が、コンクリート・プラスチック・生体素材等、様々な物質に添加・塗布されている。
超情報化社会。
あらゆる情報が、あらゆる場所で取得できる時代が到来した。
幾何級数的に増加する有意・無意を問わない莫大な情報。それを処理するには、ここ数千年大きく進歩した気配もない人間の脳はあまりにも脆弱だった。
限界に達すると人は簡単に壊れてしまう。インフラが整った先進国から順に情報強迫症や情報性鬱病が頻発し、自殺原因の上位は情報障害疾患の独占が数年続いた。2051年にはついに国内の総流通情報量を規制しようというなんとも後ろ向きで自虐的な法案まで出されてしまう。人類は自ら退化の道を選ぶ寸前まで追い詰められていた。
そんな可哀想な人間が救われるのが今から30年前。
2053年。ここ日本の京都で〝電子葉〟が初めて人に植えられた。
情報取得と処理の著しい高速化。健康を害するほどに発達した情報化社会の中で、電子葉というワクチンは急速に浸透していった。
残された暗号
御野・連レル、彼はデスクで「情報材」のコードを眺めていた。
情報素子が作り出すネットワークを規定するソースコード。世界中に張り巡らされるネットワークの基礎の基礎。情報の流通を支配する文字列。物質社会と対をなす、もう一つの社会の基盤。世界で最も美しいコード。
彼の人生を決定付けたコード。
御野・連レルはそのコードを書いた道終・常イチの最後の教え子だった。
彼は14年前に失踪した天才・道終・常イチの書いたこのコードにいくつかのミスコードを見つけていた。
しかし、ある疑問を感じた。
あの先生がミスなどするはずがない。
もしそれが意図的なものだったとしたら。
連レルはそのコードに埋め込まれた暗号の解読していった。
道終・知ル
連レルは暗号解読後、14年ぶりに常イチと再開した。
常イチは現在児童養護施設を運営しており、その中にいた娘、道終・知ルを紹介してきた。
「この子が、私のやろうとしたこと」
「量子コンピュータの電子葉”量子葉”を付けている、この世界で最高の情報処理能力を持つ人間。ネットワークの全てのセキュリティーホールをただ一人だけ利用できる人間」
そして、道終・知ルはなんとクラス9だというのだ。
そんな事はありえない。 そんなものは存在しない。
クラス。
情報の階級。
人間の階級。
このクラスによって、取得可能な情報量と個人情報の保護量が規定される。
クラスは0から6までしかなく、最高のクラス6でも内閣総理大臣と各省大臣に付与される特別なクラスなのだ。
それなのに彼女はクラス9だと言っている。 ありえない。
戸惑う連レルに先生は言った。
「後のことは頼みたい、そのために君を呼んだ」