子どもの学力を向上させる為に知っておくこと 学力の経済学 中室牧子
「データ」に基づき教育を経済学的な手法で分析する教育経済学は、「成功する教育・子育て」についてさまざまな貴重な知見を積み上げてきた。そしてその知見は、「教育評論家」や「子育てに成功した親」が個人の経験から述べる主観的な意見よりも、よっぽど価値がある―むしろ、「知っておかないともったいないこと」ですらあるだろう。
本書は、「ゲームが子どもに与える影響」から「少人数学級の効果」まで、今まで「思い込み」で語られてきた教育の効果を、科学的根拠から解き明かした画期的な一冊である。
- 他人の子育て成功体験を真似しても自分の子どももうまくいく保証はない
- 教育経済学では、たった一人の個人の体験よりも、個人の体験を大量に観察することによって見出される規則性を重視する
- 経済学者は教育政策の因果関係を明らかにするため、教育の分野で実験を行っている
- 「今勉強しておくのがあなたのため」は経済学的に正しい
- すぐに得られるご褒美を設定することは、「今勉強すること」の利益や満足を高めること
- ご褒美は「テストの点数」などのアウトプットではなく、「本を読む」「宿題をする」などのインプットに与えるべき
- ご褒美を与えることは、必ずしも、子どもの「一生懸命勉強するのが正しい」という気持ちを失わせるわけではない
- アウトプットではなくインプットに、遠い将来ではなく近い将来にご褒美を与えるのが効果的
- 成績が悪かった子の自尊心をむやみに高めるようなことを言うのは逆効果
- 子どもをほめるときには、もともとの能力でなく、具体的に達成した内容を挙げることが重要
- 1時間テレビやゲームをやめさせたとしても、男子は最大1.86分、女子は最大2.70分学習時間が増加するにすぎない
- 1日1時間までならテレビもゲームも問題ない。2時間以上だと、学習時間への負の影響が大きくなる
- 子どもの学習時間を増やすには手間暇がかかるが、親以外の親族、先生などの助けを借りてもよい
- 平均的な学力の高い友だちの中にいると、自分の学力にもプラスの影響がある
- 学力が優秀な子どもに影響を受けるのは、上位層だけ。「学力の高い友だちといさえすればよい」は間違い
- 習熟度別学級がとくに大きな効果をもたらしたのは、もともと学力が低かった子どもたち
- 引っ越しという強制的な環境の変化が負のピア・エフェクトを小さくし、子どもを守ることもある
- 人的資本への投資は子どもが小さいうちに行うべき
- 幼児教育への財政支出は、社会全体でみても割りのよい投資
- 非認知能力は将来の年収、学歴や就業形態などの労働市場における成果に大きく影響する
- 学校は、学力に加えて、非認知能力を培う場でもある
- 非認知能力は成人後まで可鍛性のあるものも少なくない
- しつけは勤勉性という非認知能力を培う重要なプロセス
- 目の前の定期試験のために、部活や生徒会などをやめさせることには慎重であるべき
- 少人数学級には効果があるが、費用対効果は低い
- 教育を受けることの経済学的な価値に対する誤った思い込みを正すだけで、子どもの学力はあがる
- 日本の研究でも、少人数学級の因果関係は小学生の国語以外の科目では確認されていない
- 「2020年までにすべての小中学校の生徒1人に1台のタブレット端末を配布する」は手段の目的化
- 学力テストの結果だけをみても、政策的に有用な情報はほとんど得られない
- もしも学力テストの結果を公表するなら、家庭の資源を表す情報も紐づけて公開すべき
- ある世代の子ども全員を対象にして「平等」に行われた政策は、親の学歴や所得による教育格差を拡大してしまうことがある
- 親への補助金が子どもの学力を上昇させる効果を持つかどうかについては、コンセンサスが得られていない
- 世代内の平等に固執すると世代間の平等が失われる可能性がある
- 国民の税金を投じた調査により示されたデータは国民の財産
- 能力の高い教員は、子どもの遺伝や家庭の資源の不利すらも帳消しにしてしまうほどの影響力を持つ
- カリフォルニア州では、教員の「付加価値」はウェブ上で公開されている
- 少子化が進む中では、教育の「数」を増やすよりも教員の「質」を高める政策の方が有効
- 教員研修が教員の質を高めるというエビデンスは多くない
- 教員免許の存在は教員の質を担保しているわけではない
- ランダム科比較試験は「政策評価のスタンダード」